「やらせてみる」ことで人は育つ――失敗と挑戦をめぐる日々
子育てをしていると、「これは経営者として従業員を育てるのと本質が同じなのではないか」と感じる場面が多々あります。

実際、経営者である以上(ひとり親方でない限り)、どこかの段階で「人を雇い、育成する」ことが求められますが、この“育成”が本当に難しいものです。
さらに私自身、「自分でやったほうが早い」と思ってしまうタイプで、ついつい人に任せるのが苦手だったりします。
しかし育児を経験しながら、「やらせてあげる」ことの大切さや、失敗から学ぶ意味を日々痛感しています。
今回は、育児と従業員育成の共通点や、実際に感じたメリット・難しさについて、私なりに整理してみました。
ところどころ脱線するかもしれませんが、等身大の想いとして読んでいただけると嬉しいです。
1.「自分でやったほうが早い」という考え方の正体
私自身は、「自分でやったほうが早いのに……」という考え方をしがちなタイプです。
人に任せると、結果的にミスが起きてフォローに時間を取られてしまったり、教える手間も発生したりして、「任せるより自分でやるほうが早い」という発想になるのです。
しかし、それでは人は育ちません。
子どもでも大人でも、結局はやったことのない作業にチャレンジし、失敗を繰り返すことで一人前になっていくのだと思います。
最初のうちはフォローに手間がかかっても、長期的に考えれば「やらせる」ことがとても重要だと感じています。
2.育児で学んだ「やらせてあげる」大切さ
2-1.最初は何もできない赤ちゃん
赤ちゃんの頃は、当然ながら自分で食事もできません。
親がミルクを与え、離乳食を口に運び、こぼしたら拭いてあげるしかありません。
ところが、しばらくすると子どもはスプーンを持ち始め、自分でご飯を食べようとします。
2-2.スプーン振り回しのストレス
スプーンを持ちはじめの頃は、口に運ぶというよりもスプーンを振り回してしまい、毎回ご飯がソファーや床、ジョイントマットの隙間にまで飛び散ります。
最初は「成長しているな」「可愛いな」と思えても、毎日毎日続くとさすがにストレスが溜まりますよね。
敷物を敷いたり、ソファーを片付けたりと対策はしても、まったく汚れゼロにはできません。
細かなストレスが蓄積し、ボディーブローのように効いてくるのが育児の大変さの一つだと感じています。
3.「やりたがる」年頃と“危ない”の境界
3-1.4歳の挑戦
我が家の子どもは4歳になり、できることが格段に増えてきました。
テーブルや椅子、ソファーなど、高い場所にも登りたがる時期です。
登ってみると、案の定、降りるときに足を踏み外して怪我をすることもしばしば。
3-2.怪我と経験
「大きなケガにつながらない範囲であれば、ある程度は経験させたほうがいい」と私は考えています。
命に関わるレベルの危険は避けますが、小さなケガや痛い思いから学ぶことは多いですよね。
例えば川遊びであれば、全く川に入ったことがないまま大きくなり、大学生になって急に友達と川に入り溺れる……という悲しい事故も耳にします。
小さい頃から川に慣れておけば、「どこが危ないか」「どんな流れなら平気か」を少しずつ身につけられます。
イーロン・マスクがピーターティールを乗せて運転しま車で、加速実験をして事故を起こした」 、という話がありますが、(アイザックソンが書いたイーロンマスクの本は本当に面白い)あれもどこまで可能かを試す“子どもっぽさ”が残っているからこそできる挑戦なのだと思います。
もちろん、命に関わる危険は避けるべきですが、「危ないから一切やらせない」となると、挑戦の機会を奪ってしまう。
この「どこまで許容して、どこからがリスクか」という境界の見極めは、とても難しいと実感しています。
4.子育てと従業員育成の共通点
4-1.経験がない作業を「やらせる」か「やらせない」か
経営者になって従業員を雇うと、新人に「やったことのない仕事」を任せる機会が必ず訪れます。
「危ないからやらせない」「ミスが出るからやらせない」と判断してしまえば、従業員はいつまで経っても成長しません。
以前の職場では「1年経たないと任せられない」と言われていた作業を、新人が意外とすんなり覚えてしまったりすることもあります。
逆に「まずはやってみよう」と挑戦させてみると、予想以上に早くできるようになる場合があります。
先入観や余計な情報がないぶん、スムーズに身につくのかもしれません。
4-2.精神的余裕が影響する
ただし、経営者(あるいは上司)の側に余裕がないと、教えたりフォローしたりする暇がなくなってしまいます。
忙しいときには「あれ取って」「これ取って」とただの使い走りにしてしまい、長い目で見ればマイナスに働くことも多いです。
本来ならじっくり教えて任せるべきところを、すべて経営者自身が抱えこんでしまい、結果として“自分でやったほうが早い病”から抜け出せないという悪循環になります。
5.経営者は「経営」するのが仕事
経営者として一番大切なのは「経営する」ことであって、「自分が作業する」ことではありません。
もちろん、最初は従業員に教えながら作業を進める必要もありますし、ある程度自分で動かなければならない時期もあります。
しかし、ずっと作業中心で進めていると、いつまでも会社は「経営者が動いてなんとかする」状態から抜け出せません。
経営者である私自身も、何度も「ああ、今は違う方向に進んでいるな」と気づいて軌道修正をしてきました。
そうしないと、「使えない従業員ばかりだ」と社員のせいにしてしまう危険があります。
しかし実際は、従業員が成長できる環境を作っていない経営者側に問題があるのかもしれません。
6.失敗を恐れない文化が人を伸ばす
6-1.自転車に乗る例え
自転車に乗れるようになるには、実際に乗って転んでみる以外に近道はありません。
どれだけYouTubeを見たり本を読んだりしても、いきなり乗れるわけではないですよね。
痛い思いをしながらバランスを覚えるわけで、乗り始めは必ず失敗します。
しかし、転んで痛いのが嫌だからと言って、自転車を与えないで育ててしまえば、一生乗れないままです。
従業員育成においても、危なっかしいからと任せずにいると、その人はいつまで経っても新しい仕事を覚えられません。
結果として「最近の若い人は仕事ができない」と嘆くような状況になるかもしれませんが、原因は「任せない経営者」にあることも少なくないのではないでしょうか。
6-2.「やってみたい」と言える土壌づくり
私が大切にしているのは、「やってみたい」と手を挙げた人を積極的に受け入れる土壌づくりです。
もちろん、危険がある場合は注意しますが、基本的には失敗してもよいからチャレンジしてもらうようにしています。
会社は社長個人のものではなく、「会社」という組織のものです。
だからこそ「自分の会社は良い会社だ」と胸を張って言えるような経営を目指していかなければと思っています。
“思い上がりだ”“自信過剰だ”と言われることがあっても、経営者が自分の会社を自信を持って評価できないと、そこで働く従業員にも失礼な話です。
7.まとめ:育児も従業員育成も「まずはやらせてみる」が基本
ここまでいろいろと脱線しながらもお伝えしたかったのは、「育児と従業員育成には共通点が多い」ということです。
• 失敗や痛い思いをしながら成長していく
• やる前から「危ない」「無理」と決めつけると、成長の機会が失われる
• 経営者は「経営する」ことが仕事で、作業を抱え込まない
• 精神的余裕がないと、どうしても任せるより自分でやるほうが早いと考えてしまう
ちょうど、自転車を初めて練習する子どもが転んで泣いて、少しずつ上手にペダルを漕げるようになるように、従業員も最初から完璧にはできません。
最初はフォローが大変でも、やがては一人で仕事をこなせるようになります。
私自身、まだまだ「自分でやったほうが早い病」との戦いは続いていますし、忙しいときは従業員にただの指示出ししかできないこともあります。
そのたびに「経営者は経営をするのが仕事」という言葉を思い出して軌道修正し、長い目で従業員を育てていく重要性に立ち返るようにしています。
最終的には、やはり「実際にやってみなければ何も始まらない」のだと思います。
やらせてみることでしか見えない能力や成長があり、そこに初めて“失敗から学ぶ”というプロセスが生まれるのです。
子どもの自転車練習を見守るように、従業員の挑戦も見守って応援する。
痛い思いをしたら、そこから学び、さらに強くなる。
そんな姿を経営者として、また親として、いつでも支えられるよう意識していきたいと思います。
“失敗を恐れず、まずはやってみる”――この姿勢こそが、結局は一番の近道ではないでしょうか。